渡辺:
そういったこだわりや憧れから、“家”に興味をお持ちになり、住宅展示場を内見されるのがご趣味でもあるのですね。
佐伯:
そうなんです。でも、現代の住まいづくりの傾向はあまりに利便性に偏りすぎているように感じます。システムキッチンや大理石など、外見にとらわれすぎているのではないでしょうか。ゴージャスな素材やディテール=(イコール)いい家、ではないのです。
渡辺:
確かに、便利で手間がかからない機械設備が備わっていることにこだわる方が多いように感じます。核家族化に伴い、間取りもコンパクトになっていますね。
佐伯:
核家族化で、おじいちゃんおばあちゃんから生きるための生活の知恵を学ぶ機会も失ってしまいました。キッチンだって、奥まったところに配置されている家も多いですよね。食べるのは、生きる糧です。食べるためにお父さんが働き、お母さんが食事を作る。家族が健康であるための根幹であるキッチンが、奥まった場所にあるのは効率的ではないと思います。会話のきっかけの場所を失うことでもあり、家族の絆が希薄になってしまっているのもうなずけます。
渡辺:
先生の、トイレと浴室の間取りの指摘にもハッとさせられました。
佐伯:
トイレと浴室は、本来は隣同士にあるべきなんです。特に子どもや老人は、急激な体温の低下でトイレが近くなる。浴室で衣類を脱いで体温が低下してしまい、トイレに行きたくなったとき、隣にあればとても便利だと思いませんか。人間の摂理にかなう間取りでなければならないのです。
渡辺:
広さにゆとりのない場合が多く、設計上現代社会ではなかなか難しいのですが確かにおっしゃられる通りだと思いました。
佐伯:
便利すぎる生活は家族の間に問題をひきおこすこともあります。食事も、出来合いもので済ませたりする奥さんも多い。そうなってくると、旦那さんが帰りたいと思えなくなる。そうした小さな便利の積み重ねが、家庭崩壊のきっかけになってしまうことも。便利と創意工夫は、時に相反するもの。手間がかかって面倒だなと思うときもありますが、愛情をかけて手間ひまかけたものに人は寄り添いたくなるものです。利便性を求めすぎた結果、今の住まいは“家族が帰りたくなる住まい”から遠のいてしまっているように感じますね。
渡辺:
100年住宅、長期優良住宅といわれますが、耐久性・利便性だけではダメなのですね。
佐伯:
もちろん機能性も必要ですが、追求しすぎると往々にして失うものも大きいということを頭に留めておかなければなりません。だから、適度なバランスを保った理想の家をつくりたい。そう思ったのです。