木造住宅を供給する会社として、木の魅力をこれまで伝えてきた私たちは、皮革産業と出会った事がきっかけで、皮革の持つ風合いや木との相性に魅かれ、皮革を木と融合させ主に住宅の建材として利用する「皮革建材プロジェクト」を始めました。相性のいい天然素材である木と皮革による建材を暮らしの中に広めることで、愛着が醸成される新しいライフスタイルを提案したいですね。
本プロジェクト初の商品として、天然木と皮革によるドアを開発し、6月11日より開催された「里山住宅博in KOBE 2016」に出展しているモデルハウスにて披露しました。これをきっかけに地元の製革業者や革加工業者と連携し、開発した皮革建材を全国のビルダーや建築家に発信していきたいと考えています。
古来より木も皮革も人の暮らしと密接に関わってきた素材です。
革の原料である皮は動物を食肉加工する際に必ず生まれる副産物ですから、それを無駄なく有効活用することは、木材の利用と同じく、資源を循環活用することになり、地球温暖化の原因であるCO2排出を抑えることにもつながります。
住まいづくりで私たちがこだわってきた木と、その付加価値をさらに高める皮革を融合した建材を普及させることが、私たちの暮らしの質を高めるだけでなく、木材産業の活性化や兵庫県の伝統的地場産業である製革業の活性化、そして持続可能な循環型の社会を築くことにつながればと考えています。
お世話になっているNPO法人日本皮革技術協会の方を通じて、革の材料を提供できないかとLaboさんより問い合わせをいただいたことがきっかけでした。
「木と革を使った建材を暮らしの中で広めることで住み手の愛着を育む住まいを届けたい」そんなLaboさんの想いに共感し協力させていただきました。
姫路における製革産業の歴史は古く、書物の記載によると弥生時代後期に大陸から技術が伝わり、江戸時代中期から大きく発展したようです。この地で発展した理由の一つが播磨の水です。素材としての革ができるまでに原皮を洗ったりするのに大量の水を使います。今では地下水をくみ上げたり、日本に原料が入る前に海外で処理できますが、昔は川の水を利用していました。だから川の流域に加工場が多かったんです。良い革をつくるには良い水が必要で、姫路の市川の水質が革によく合ったんです。
その姫路の地で創業し、今年で45年目になります。自らタンナーとして現場に入り、社長となった今でも現場を離れることはなく、仕入れた原料の革の品質を見極め、染色方法を定めるのは私の仕事です。素材の品質に合わせて最適な加工を施すことで製品価値を高めることができます。この見極めが重要で、長年の経験がなければできない作業です。
2年ほど前から素材としての革に力を入れていこうと決心し、品質やサイズ、量、金額、使うタイミングや何に使うかなど様々な要件に出来るだけ応え、お客さまが使いやすいサービスを提供することで使い続けてくれる方が増えてきました。
革のショールーム建設やホームページを充実させるなど自分たちから積極的に提案するようにした結果、企業やメーカー、問屋から一般個人の方まで幅広くお客様が増えてきました。
今回のプロジェクトで使用している「エコレザー」は、環境負担の少ない製造過程によって生まれた天然皮革です。臭気や化学物質の使用制限など一定の基準を満たした革ですので、人にも優しい素材と言えます。まだまだ普及はこれからですがやはり肌に触れるものなので、そこは意識して取り組んでいます。
最近、本屋で革を扱う雑誌も見るようになりましたね。趣味で革を使ったものづくりが一般の方の間でも流行っているようです。住宅インテリアでも今は本物の素材を志向する傾向がありように思いますので、革と建材の融合というのは面白いかもしれません。例えば床に敷くタイルカーペットのように革とマットが一体になった床材とか。何の革を使うか、どう加工するかで質感や表面デザインも変えられるし、染色で色味も変えられます。ただ傷が付きやすい特性とかメンテナンスのことなどは天然木と同じでセールス側がお客様にきっちり説明する必要があります。またどんな環境で使うか分からないので、摩擦や直射日光に対する耐久性など、一気に普及するよりは1年、2年様子を見ながら拡げていった方がよいと思います。
今は革製品のクリーニングや、修理してくれるメンテナンスショップが結構ありますが、私たちも以前有名ブランドのバックなどの革修理を受けていたことがありました。買った方がいいと思うぐらい使い込んでボロボロになったバッグを持ってこられる方が数多くいらっしゃいました。やはり愛着があるのでしょう。何年も使い込むことでちょうどいい柔らかさになり、色味に風合いが出てきて。木もそうだと思いますが、革にはそんな使う人の愛着を育てる力があるのです。
今回、皮革ドアの製作に関わることになったのは、NPO法人日本皮革技術協会の方から「革を使ったドアをつくりたい住宅会社がある」と紹介されたことがきっかけでした。初めて話を聞いた時、面白い企画だと率直に感じましたし、革を使ってドアを製作するのは当社としても初めてで、技術的にハードルが高い部分もありましたが、私たちだからこそ応えられる仕事だと思い、引き受けました。
木と革を組み合わせて新しいことを提案する。そこに可能性を感じました。革も木と同じく私たちに身近な素材です。
革といえば高級なイメージを持つ方もいるかと思いますが、鞄や家具、手帳・・・昔から暮らしの中でいたるところに使われています。それにどちらも天然素材で相性がいい。触れたくなる肌触りの良さと、経年変化や使い込むほどに味わい深くなる表情など共通点は多いと思います。
木と革の組み合わせたものは、椅子やソファなど家具ではありますが、住宅建材ではあまり見られません。それぞれの特性を活かして暮らしに採り入れれば業界の発展にもつながると思います。
革と木と同じで素材次第で使い方が変わります。何にどう使いたいから、この素材でこういう加工が必要というように逆算して決めます。固さや柔らかさは仕上げで変えることができます。例えば男性の鞄用や女性の靴用など特性に合わせて素材を選定し、鞣し(なめし)方や穴を開けたり型押ししたりなど表面加工の仕方で肌ざわりや風合いをコントロールします。革は生のままだと当然腐敗するので、それを長期間使えるように防腐加工するのが「鞣し」です。鞣しには金属性のものと植物性のものがあり、金属性の鞣しは近年になって普及しましたが、以前は柿渋など、その材料を木から採っていました。昔から木と革が密接な関係にあったことが伺えます。
革には直接触れて感じる良さと、見て愉しめる表情の良さがあり、「魅せる」素材としての革の取り組みはもっとあってもいいと思います。もちろん、素材の特性を生かすのは前提ですが、見た目のデザインも普及させるためには重要な要素だとおもいます。木が直線的でハードな質感に対し、革は曲線的でソフトな質感です。この両者の特性を上手く活かして融合させることがデザインする上で重要だと考えます。また、革はもともと生き物の皮膚ですから人に近い素材。木でつくられる家とそこに住まう人との中間点に革は立てるよう思います。このプロジェクトにより、革が人と住まいとを融合させつながりを持たせる、そんな緩衛役としての役割を期待しています。
明るい展望でいうと、ものをつくるのが身近になったということです。情報や材料、機材といったものづくりにおける環境が以前よりもずいぶん身近になっていると思います。例えば革の材料ひとつとっても、以前は素人の方が買う手段も分からなかったものが、インターネットを検索すれば購入できるサイトはたくさん見つかります。自分でもやってみようと思えばできる環境が今は整っているのですね。また、SNSの普及により個々の表現は発信しやすくなり、共感を得ることでさらに拡散できるようになりました。これまでは、たくさんの人に同じものを供給してきた業界の流れがニッチな個人や個性が数多く出現し、多様化する流れに変化しています。ますます個が加速し広がっていく、それが可能な時代になってきています。
反対に大きな企業にとっては商売のやり方を変えていく必要があるといえます。右向いても左向いても同じものを持っているのはみんな嫌なんですね。より特徴的でカスタマイズされたものを望みます。いわゆるオーダーメイドですね。私たちはレザーライフコンシェルジュという立場で10年以上も前からそういった対応をしてきました。お客様のご要望に対し、知恵と工夫を載せてプロの立場からお応えする、そんな仕事が今後、より評価される時代になっていくと思います。