2023.09.16
伊東 朋哉
こんにちは。住空間設計Laboの伊東です。
今回も引き続き、「水蒸気」の性質からお話ししたいと思います。
前回、「水蒸気」は、外壁でも簡単に通り抜けることができるほどの
非常に小さな粒子であるということ。それともう一つ、
絶対湿度の高い方から、低い方に向かって移動する性質があるとお伝えしました。
この移動する性質は、物理学の法則になりますが、
気圧差がある時に、気圧の高い方から低い方に向かって風が吹くのと同じ理屈です。
この時期、発生する台風は、この気圧の差が非常に大きくなった状態ですね。
同じように水蒸気も圧力に差があると、均一になろうと高い方から低い方に移動します。
空気中の水蒸気圧の差は、水蒸気量の差=絶対湿度の差ということなので
水蒸気は絶対湿度の高い方から低い方に向かって移動するということになります。
では、この水蒸気の移動について、いつもの湿り空気線図を使って見てみましょう。
前回と同じく、窓の結露がよく見られる冬場を想定したいと思います。
例えば、室内温度は24℃・湿度50%とし、外気温は5℃・湿度70%とします。
湿り空気線図によると、室内の絶対湿度は約9g/kg、外の絶対湿度は約4g/kgとなり、
絶対湿度の高い室内から、低い外に向かって水蒸気は移動しようとします。
たとえ、外がひどい雨ふりで湿度が100%だとしても、絶対湿度は5.5g/kg程度なので
水蒸気は、室内から外に向かって移動しようとします。
冬場は快適な体感温度を維持するために、暖房しながら加湿も必要と、以前お伝えしました。
加湿をし続けると、外の絶対湿度との差が無くなることはなく、
室内から外に向かって水蒸気はずっと移動しようとします。
先に言いました通り、水蒸気の粒子は非常に小さいため、
室内側の壁紙や、その下地に使用される石こうボードなどは、
その素材に空いている、見えない無数の小さな穴を通って簡単に通り抜けます。
室内の水蒸気がそのまま壁の中に侵入してくると、どうなるでしょうか。
実際には壁紙や、石こうボードも若干は水蒸気を止めてはくれますが
分かりやすくするため、壁の中も室内と同じ絶対湿度の状態になると仮定します。
室温24℃・湿度50%の空気は、
湿り空気線図によると、大体12℃くらいで結露するので、
壁の中に12℃の部分が存在すると、そこで結露するということになります。
外に面する壁の中には断熱材が入っているため、
エアコンにより、室温を24℃に保てるわけですが、
外気温が5℃であれば、必ず壁の中で12℃になる部分は存在します。
これが見えないところで発生する結露、いわゆる「壁内結露」という現象です。
壁で水蒸気の移動を止める「防湿」の施工を行わなければ、
このように水蒸気は壁内に簡単に侵入し、
断熱材の中で露点温度に達した所で結露し、「水」になります。
この状態が続くと、断熱材は劣化し、カビも発生してしまいます。
何より怖いのは、見えないところで被害が進行していくので
気付かないうちに建物の耐久性を大きく損なってしまうことです。
次回は、この水蒸気の移動を抑える、気密施工について
お話ししたいと思います。